消えた1200億個の容器の行方 《数字で紐解く高級コスメ問題》
まっすぐに伸びた棚がずらりと並ぶ店内。キラキラの照明の下で、一際美しいコスメ製品が数えきれないほど、それぞれの棚に敷き詰められている。買い物カゴを片手に、製品を手に取る買い物客は、真剣にパッケージを見たり、楽しそうに会話を交わしたりして買い物を楽しんでいた。

海外で人気の「Sephora」というコスメ専門店に初めて足を踏み入れた時、私はまだ大学生で、目が痛くなるほど明るい照明と、大きな音で流れる流行りの音楽と、何種類もの香水や化粧品の香りが混ざった店内に「不快感」を感じたことを、今でも覚えています。
それでも週末の予定のためのマスカラが欲しくて、黙々と探し、おそらくその時の私はクオリティなんかではなく「パケ買い」をしたでしょう。そして家に帰って、可愛いと思ったパッケージをゴミ箱に捨てて、マスカラを数回使って、容器をゴミに捨てたでしょう。
典型的なコスメの消費と破棄。その時は何も思わずにしていた選択。あの頃はまだ「一瞬のトキメキ=一瞬のゴミ」なんていう思考回路にはならないし、ならないことを責めたりもできません。
なぜなら私たちは世の中のマーケティング戦略で「もっと買うこと」「もっと欲しがること」「すぐに手放すこと」を頭に叩き込まれているのですから。
トキメキコスメ:その容器は、どれくらい使われる?
数秒でゴミ箱に捨てられる外箱などのパッケージ、数分で役目を終えるサンプルパッケージ、数ヶ月で空になるスキンケアパッケージ。全体的に見てもコスメ製品の半永久的な使用率やリサイクル率は圧倒的に低いです。そして、破棄された容器はゴミ処理場で何百年と残る可能性があるため、コスメ製品の「使用期間」と「存在期間」には大きなギャップが生まれます。
世界で製造されるコスメパッケージの数

世界中で統計すると、年間 約1200億個ものパッケージが美容やコスメ製品として製造されていることがわかっています。このパッケージの約6割〜7割がプラスチック製で、残りはガラス・アルミ・紙・複合素材などとされています。
世界のプラスチックリサイクルは非常に低く、全体の9%ほどにしか及ばないため、パッケージのほとんどもリサイクルされていないことが分かります。実質的に約95%のパッケージはリサイクルされていないと推定されていて、約70%は埋め立て処理場行きになっています。
国内では、日本化粧品工業会が2022年施行の「プラスチック資源循環促進法」で、2030年までに使い捨てプラスチック25%削減目標を掲げていますが、日本国内だけで見てもプラスチックのリサイクル率は20%以下なので、「使い捨て」されなかったとしても果たして資源としてしっかりリサイクル率を上げていけるかどうかは別の課題といえます。
中身より高いパッケージ

一般に公開されているデータによると、高級コスメでは原価の30〜50%が容器のコストに当てられているとされていますが、実は最近コスメ業界に深く浸透しているminimal.の知り合いから、容器コストがほぼ8割を占めていると教えてもらいました。
例えばシミシワ改善やアンチエイジングなどの効果があるとされる美容クリームなどは、よく考えるとどのメーカーでも使用している成分があまり変わらなかったりします。それらの成分がどこで製造されていて、誰が販売していて、誰が買い取っているのか。出所は皆、同じかもしれません。(高級ブランド服とファストファッション服が同じ工場で作られている、というように)
中身に限界があるとしたら、人は皆「見た目」に大きく反応する生き物なので、パッケージに力を入れ「これを買うといいことがある」「これを持っているあなたは価値がある」「今買うべきものはこれだ」というようなメッセージがあるパッケージ・マーケティングで消費者の心を掴もうとします。
パッケージにコストをかける場合、多くのものが多層構造・金属装飾・複合素材を含むことになり、こうなるといよいよリサイクルが不可能な「「分解できない設計」となります。
消費者に一瞬のトキメキと必要性を与え、を美しさを演出した設計が、本来必要とされるモノの循環を止め、サスティナビリティからより遠ざかる結果になっているのです。
人気ブランドはどこまで動いている?
日本国内で言うと、資生堂やファンケルなどが今後の容器回収システムや詰め替え製品の拡大を目指していますが、実際のところリフィル対象商品はごく一部であったり、回収システムの利用率が低いことが問題となっています。LUSHのように、設立当初からパッケージ問題をビジネスのベースに設けて「裸売り」を常識化しているようなブランドだと、一定数の顧客がつき、消費者もこのようなフィロソフィーを求めてそこで買い物をする、と言う傾向が多いそうです。
便利さに慣れ、利便性を求めすぎている消費者と、システムチェンジに大きなコストをかけてまでその一歩を踏み出すのかというリスクを背負うビジネス。本当の解決策は、双方が歩み寄った真ん中にしか現れないような気がします。
CHOOSE BETTER: 唯一の答え

私がSephoraの店内で感じた違和感や不快感を、同じように感じる人は多いと思います。
実際に、消費者がもっと確立したサスティナブルなシステム(リフィルや回収)を求める声はこの数年で増えていて、完璧なブランドはなくても、その選択肢があるところに注目や関心が集まっています。
リフィルがあるなら選ぶ、ガラスや単一素材を選ぶ、過剰包装を避ける、使い切れる量を買う、こういったアクションも全て、最終的に循環型消費に繋げていけるものになります。
minimal.で化粧品を取り扱うのには大きく分けて2つの理由があります。
1つ目は、「自分たちが使いたい、イケてる製品だから。」
2つ目は、「過半数のコスメ製品と違う選択肢を、知ってほしいから。」
取り扱っているコスメの全てのパッケージに共通して言えることは:
- パッケージが埋立地に行かない
- プラスチックを含まない
- 過剰包装がない
それ以外にも、動物実験をしていない成分や自然由来の成分を使用していることや、大量生産をしないことで外側のパッケージではなく中身にしっかりとコストをかけ、人にも地球にも優しいものであること。製造者たちがそれぞれに熱い想いを持って、サスティナブルなブランドイメージを確立していること、などなど。とにかく自慢したい要素しかないものばかりなのです。
「Choose better - より良い選択をする」- この積み重ねで、消費者としてコスメ業界のあり方を一緒に変えていきましょう。
本記事の参考情報リンク:https://www.mdpi.com/2073-4360/14/21/4576 / https://www.fortunebusinessinsights.com/cosmetic-packaging-market-102130 / https://www.zerowasteweek.co.uk/ / https://www.ellenmacarthurfoundation.org/plastics-and-the-circular-economy-deep-dive