【消えゆく伝統】オーバーツーリズムが自然と暮らしに与える影響

山梨県富士吉田市は今月3日、今春に開催を予定していた「新倉山浅間公園桜まつり」を中止することを発表しました。受け入れの限界を超えたオーバーツーリズム(観光公害)が、地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしているためだと公開しています。

2月も終盤に差し掛かり、もう1ヶ月もすれば桜の開花があちこちで始まります。桜の開花は、私たち日本人にとっても春の訪れを感じる嬉しい時期ですが、日本の桜は世界中から人々が訪れその美しさに魅了されるほど有名なものでもあります。

SNSには「ここが穴場!」「今年はここが最高」という情報があふれ、「桜の名所」として知られている場所だけでなく、住宅街の桜並木など観光客受け入れ態勢がさほど整っていないところにも人が押し寄せるため、近年のオーバーツーリズムによる環境被害は深刻化しているのも事実です。

桜が問題だったわけではない

10年前に始まり、20万人以上の人が訪れていた富士吉田市「新倉山浅間公園桜まつり」は近年、観光客が集中した結果、こんなことが起きていました。

  • 道路や住宅街の慢性的な渋滞、日本の交通マナーを理解していない外国人ドライバーによる危険な運転
  • ゴミの放置、路上喫煙、路上排泄
  • 一般家庭の庭など、私有地への無断侵入
  • 地元の人が外出しづらくなる生活ストレス

桜は変わらずそこに咲いているのに、地元住民の暮らしが限界を迎えてしまったのです。これは富士吉田市だけにとどまらず、円安が続く日本国内においてメジャーな観光名所である鎌倉や京都、富士河口湖、富士山登山道などでもよく耳にする「オーバーツーリズム(過度な観光)」です。

オーバーツーリズムが自然に与える影響

観光客が増えること自体は悪いことではありません。でも受け入れ体制が整わず「多すぎる」状態になると、周辺の自然環境にも負担がかかります。

  • ゴミやタバコの吸い殻のポイ捨て:その土地の土壌・水質汚染に直接つながります
  • 人が多すぎて歩道以外のところを歩かれる:そこに生息している植物が踏み荒らされ、景観が壊れるだけでなく、生態系に悪影響を及ぼします
  • 大きな声や騒音、カメラのフラッシュ撮影による人工的な光:そこに生息している野生動物へ大きく影響します

植物や動物は自然は声を上げられません。私たち人間は多くの場合、それらが壊れてから気づくことが多いのです。

コミュニティが壊れると、文化も消える

自分の暮らす街が、「訪れてみたい」と思われる観光地になることは、とても誇り高いことでもあると同時に、そのせいで元の暮らしが保てなくなってしまう懸念もあります。

日常使いしていた商店街が、価格もサービスも観光客向けの店ばかりになってしまったり、そこで暮らしている地元の人が集う場所や買い物に行く場所が減ってしまうケースも多々あります。

そういった状況が長く続くと、住みにくさや居心地の悪さを感じることが増え「ここに住んでいていいのかな」と思い始める人も少なくありません。

富士吉田市が祭り中止を決めた背景には、「市民の生活と尊厳を守る」という強いメッセージがありました。観光で街が有名になっても、そこに住む人たちが疲れ切ってしまったら、その街の本来の良さは失われてしまいます。

私たちの暮らしと、つながっている

この話、「観光地の問題でしょ?」と思うかもしれません。でも実は、安いから・流行っているから・みんな行っているから - そんな理由で選ぶ行動が積み重なると、自然や地域に無理をさせる結果になることもあります。

完璧なエコ旅行をする必要はありません。
ただ、「ここ、ちょっと混みすぎてないかな?」「地元の人はどう感じているかな?」そう一瞬立ち止まるだけで、選択は変わってきます。

訪れた場所に敬意を払う、自分が訪れる前よりも良い状態にして去ることを心がける、そこで暮らす人々にとってポジティブな影響を残せるよう工夫する。もしゴミの分別方法や、交通マナーがわからない外国人の観光客を見かけたら、ジェスチャーと笑顔で、ちょっとしたヘルプを差し伸べるのもありかもしれません。どんな場所でも「リスペクト」と心がけることを忘れないようにしましょう。

続けられる形を選ぶということ

富士吉田の桜祭り中止は、環境を守るためだけの決断ではありません。市長の堀内さんは、自然・暮らし・文化を、これからも続けるため、「持続可能な観光都市への転換に向けて」住民の暮らしと観光が共存できる環境づくりを目指していく、と述べていました。

いかに「持続可能であるか」が一番の優先順位であることは、この桜祭りだけでなく全てのイベントごとに言えることです。規模の大小に関わらず、オリンピックも、観光も、イベントも、本当は全て同じように配慮されるべきなのです。

一時的な盛り上がりより、長く続く日常を大切にした延長線で、世界中の人々に親しまれリスペクトされる場所を作り上げる。これからのツーリズムに必要なサステナビリティなのかもしれません。

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